ディーヴァグランプリ4thは、過去に開催されたどのディーヴァグランプリよりも、『長かった』。
回戦数という点だけで見るならば、前回のディーヴァグランプリ3rdと変わりない。
けれども、今までで最も多い参加人数という事実が、そして白ルリグ台頭によるゲームスピード自体の低速化という現象が。今回のディーヴァグランプリを、過去最大の長丁場へと変貌させていた。
そんな長い、長い1日も、決勝と三位決定戦のふたつの試合を残すばかり。
決勝戦のアナウンスから、一分、二分。少し早足気味に決勝の指定席へと姿を表したのは、予選3位の好成績からここまで順調に勝ち上がってきた”ぽっきー”選手だった。
3位といえど、彼の上に位置する2人との差はわずかなオポネント差しかない。つまるところ、彼はこの舞台まで、一度も敗北することなく駒を進めてきたということだ。
「勝ちてえなあ」
ぼやくように呟く彼は、死に物狂いで四か月の大会を駆け抜け、一週間後に開催予定の公式招待制大会『夢限少女杯』への出場権を手に入れた選手でもある。今日、ここで最後まで勝ち切ることができれば、間違いなくそれは翌週への大きな弾みとなるだろう。
最後の大一番、負けられない試合。
しかし、この勝負を”負けられない”のは、彼だけではない。
対面に姿を表したshizuka選手もまた、もちろんこの大一番を勝ち切りたい人間だ。
予選を16位ギリギリという崖っぷちの成績で突破した彼は、”順調”であったぽっきー選手とは逆に位置している選手だといえた。
決勝のブラケットでは”その日、最も予選で絶好調だった”1位とすぐにぶち当てられ、二回戦でも三回戦でも常に予選順位一桁の選手ばかりが対面に座る。予選で少しの隙を生んでしまったからこそ、決勝ではより辛い戦いが待ち受けるものだ。
しかして彼は、そんなトーナメントを勝ち、また勝ち、そして今、決勝の舞台へと歩みを進めたのだ。
既に一度、予選で負けている。ならばこのグランプリではもう、二度と土を付けることはしたくない。
『負けられない』。
そんなの、2人ともそうだ。この大規模大会の決勝の舞台において、負けられる理由なんてあるわけがない。2人だけじゃない、この大会に参加した全ての人間が、負けられないと思いながら戦い続けて来た。
けれど、この負けられない試合で、負けられない大会で、誰もが負けずに終わることだけは決してない。
自分の『負けられない』を最後まで貫き通せるのは、たった1人だけ。泣いても笑っても、この試合でその1人が決まる。
ぽっきー選手(リメンバ/マドカ-ウリス) vs shizuka選手(リメンバ/マドカ-マキナ)
両プレイヤーとも4枚ものマリガンを宣言した試合は、先手のぽっきー選手の長考から始まった。
決勝は制限時間も無制限、全ての選択肢を吟味しながら行動を決定する余裕がある。彼はマリガン後の手札から《聖天姫 エクシア》をチャージしてセンターをグロウさせると、続けてマドカを《マドカ//フロート》にグロウさせ、出現時のコストに《羅菌 アメーバ》を選択。
そのまま、グロウコストになるような白シグニが場に出せれば理想だったが――4枚ものマリガンを行って、そこまで潤滑にはいかなかったようだ。彼の場に《蒼魔 マノミン》が2枚並び、ターンが回る。
返すshizuka選手も、ここでは一旦長考から入る。
緊張かはたまた武者震いか、彼の手が、少し震えているのが見て取れた。舞台も、相手も、最高峰に近い。この場所にいるプレッシャーも、勝ちたい気持ちも、ひときわ強くあるはずだ。
彼は長考後、意を決したように「お待たせしました」と言うと、《幻怪 ドーナ//メモリア》をエナチャージしグロウ。《マドカ//フロート》で《コードメイズ ユキ//メモリア》を切って3ドローし、《コードメイズ キョウシュウ》《羅原 Ga》を立ててアタックへと入る。
ぽっきー選手の《マノミン》は片方踏みつけられ、ルリグアタックはガード。互いに長い時間を掛けた1ターン目は、ようやく終わりを迎えた。
ライフから白エナがめくれたぽっきー選手は、迷わず場にいるもう片方の《マノミン》をチャージしてセンターを成長させると、アシストウリスも続けて《ウリス・スケアー》へとグロウさせた。
shizuka選手の《Ga》が除去され、デッキが4枚落下する。ぽっきー選手は更に今しがた作った青エナで《RANDOM BAD》を撃つと、場を《羅星 リンクス》《プリパラアイドル ファルル》《羅星 レプス》と高パワーで固めてアタックフェイズへと入った。
ここでshizuka選手のライフから《サーバント #》がめくれるも、最初の要求である以上トラッシュに《サーバント #》はない。少し不満な捲れ方を強いられたまま、shizuka選手はライフを5に落として自身のターンへと入った。
多少不本意な捲れ方をしたのならば、それさえも最大限に活用するしかない。
エナを手置きせずそのままグロウしたshizuka選手は、そう言わんばかりにマキナを《ウイングスラッシュ》へ乗せてぽっきー選手の《レプス》をバニッシュしたのち、《プリパラアイドル ファルル》2枚を並べてアタックフェイズへと移る。
後手による手札枚数の多さ、バーストによる追加の手札、そしてアシストがマキナであるがゆえの拾える手札の多さ。これだけ揃えば、《ファルル》でハンデスを選択するのにも迷いはない。
shizuka選手が速やかに2枚のハンデスを選択すると、ぽっきー選手の手札に《アメーバ》の姿はなく、彼の手札枚数は1枚まで落ち込むこととなる。
けれど、ここの攻防においては、幸運はぽっきー選手の側に傾いたようだった。
《マドカ//ダブ》にグロウして手札を追加するもガードは持てなかった彼だが、そのライフからは待望のダメージソースとなるバースト《レプス》。ライフは5対5ながら、ぽっきー選手は先手での追加1点を確約することに成功した。
ターンを貰ったぽっきー選手は、そのまま場の《リンクス》をチャージしてリメンバを《ディナー》までグロウさせ、すぐにターン1起動効果を発動する。
続けて、《ファルル》効果で減ったshizuka選手の選択肢を更に縛るべく、ハンデスが入る。《羅原姫 ZrO2》によるランダムハンデス、《羅星姫 ミュウ//メモリア》による手札補充……からの、《マノミン》による更なる1ハンデス!
さっきはぽっきー選手の手札が1枚になったが、今度はshizuka選手の手札が1枚。そして、このターン2枚のハンデスが行われているため、ぽっきー選手の《羅原 ZrO2》はしっかりと点数要求を行えている。
shizuka選手にとって、難しい選択の連続だ。
点数を詰め返すために《マキナスマッシュ》をグロウさせるも、今地上で要求をしているのは《ZrO2》と《マノミン》の2体。前者を除去した方が除去のバリューが高いとはいえ、そちらだとぽっきー選手もアタック時に支払う1リソースを節約できる。
続く自ターン中の要求しやすさか、相手へのリソース強要か。
果たしてshizuka選手は《ZrO2》を除去し、要求できる可能性を上げることに決めた。ライフが5対3まで落ち込み、shizuka選手にもようやく3ターン目が訪れる。
そして、すぐさまshizuka選手は、相手の場に《マノミン》を残す選択が正しかったことを知らしめた。
センターをこちらもLv3までグロウさせた彼は、鏡のように同じくターン1起動効果を速やかに発動すると、これも鏡のように《ZrO2》を出し、青1コストでハンデスを選択し、2面要求をやり返したのだ。
《聖天姫 エクシア》が出れば防御面も十分。作り上げる盤面としては最善に近い一手だったといえる。
だが、正しい選択を連続させようとしているのは、ぽっきー選手も変わらない。
アタックフェイズを宣言されたぽっきー選手は、すぐに相手のデッキの残り枚数を確認する。
初手と初期ライフで12枚減って、28枚。3ターン目までのドローで22枚、《マドカ//フロート》で3枚減って19枚の、《リメンバ・ディナー》で1枚減り、《ウリス・スケアー》で4枚落下。
これで、14枚。shizuka選手のデッキは、”ぴったり”14枚なのだ。
ぽっきー選手は、自分の計算が間違いなかったことを確認したのち、自信を持ってウリスを《ウリス・アフリクト》へとグロウさせた。追加コストが支払われ、2人のデッキが4枚ずつ落下し、shizuka選手の《ZrO2》が除去される。鏡のような要求のやり返しから、鏡のような《ZrO2》除去へ。
ライフが4対3になりながら、ぽっきー選手へとターンが移る。
と、彼は、shizuka選手の行動の隙を咎めるかのように、すぐリメンバの起動効果を両方とも起動した。
《リメンバ・ディナー》のゲーム1効果により、shizuka選手の場から、耐性が何もかも消え去る。続けてぽっきー選手のルリグデッキから姿を表した《ウルトラスーパーヒーローズ》がshizuka選手の残るデッキ10枚を綺麗に削り取ると、公開領域のライフバーストを確認したshizuka選手から「あ~~!」ともったいなさそうに声が漏れる。
リフレッシュ、shizuka選手のライフは残り2。ぽっきー選手が《羅星 ミュウ//メモリア》を盤面に追加すれば、要求ももう1面分追加で生まれる。《大装 ゲイヴォルグ》《凶魔 テューポーン》と並べば、パワーラインまで最大級だ。
手札にサーバントがないらしいshizuka選手は、ここでたまらず最後のアシスト《マドカ//ダブ》をグロウさせる。それでも、シグニとルリグの1点ずつが、そのライフをすっからかんの0へと押し込む。
めくれたバーストの《サーバント #》が、shizuka選手の嘆きの意味を物語っていた。
「噛み合いが悪すぎる!」
トラッシュに《サーバント #》がない状態での《サーバント #》のバーストは、防御を成立させない。せめてリフレッシュ前、中盤域のライフに眠っていれば、今頃ルリグアタックがガードできていた……が、無情にも、めくれたタイミングは今。今なのだ。
この流れで、shizuka選手は一気に窮地へと追いやられてしまった。
ライフは0、アシストは使い切り、そしてぽっきー選手は次のターンの要求も完璧だと言わんばかりにエナに《羅星 ミュウ//メモリア》を、そしてルリグデッキに1枚のピースを残している。
ライフも4枚とくれば、これは盤石にさえ見える。shizuka選手の視点からは、その残りライフ量は、まるでそびえたつ高い壁のようだ。
しかし、もうターンは残されていない。shizuka選手は、ここでやれる所までやるしかない。
まず、彼のルリグデッキから《マイアズマ・ラビリンス》が姿を表す。
ゆっくりと選択モードが熟考された末、《ZrO2》の蘇生、1面へのパワーマイナスによるバニッシュ、そしてデッキの7枚落下が選択され、ぽっきー選手のライフがリフレッシュで3枚へと落ち込む。
《ZrO2》の出現時効果でランダムハンデスが行われ、ぽっきー選手の手札から《RANDOM BAD》が叩き落とされる。
続けて彼が見せたのは《burning curiosity》。これによって最大パワーの《テューポーン》はあっけなく盤面から吹き飛んでゆく。
そして、shizuka選手にできたのは、そこまでだった。
「詰め切れねぇ……」
場を高パワーラインで固め、《リメンバ・ディナー》のゲーム1効果を先撃ちし、相手のシグニがエナにならないよう《ゲイヴォルグ》を使用し。
前のターン、やるべきことをやり尽くしたぽっきー選手の場に残る最後のシグニ。これをshizuka選手は除去するに至らなかったのだ。
場が空き切りさえしなければ、ぽっきー選手は、耐えに耐えて残したライフで確実に攻撃をキャッチできる。
シグニ2点と、ルリグの1点。
そこにライフバーストの姿はなかったが、ぽっきー選手は間違いなく全てを受け切ったのだ。
そうなれば、残るは最後の一撃を通すだけ。
ターンを受け取ったぽっきー選手の手札から、最早ピース使用の時間すら惜しいと言わんばかりに、《凶魔 アンナ・ミラージュ》が姿を表す。
相手のシグニを除去したその悪魔のシグニが、そのままライフのないshizuka選手へと襲い掛かった。
ぽっきー選手、全勝優勝!
優勝の瞬間、対戦相手のshizuka選手、周りの観客も称賛の拍手を送った。
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